鞄に忍ばせた一通の手紙

家族

 一人旅をするようになってから、手紙を書くことが増えた。インターネットがそこまで発達していなかったことやスマートフォンも持っていないかったことで、必要に迫られて生存確認用に書くようになった。それでも、何度か書いていくうちに、手紙の魅力を知った。

 大学生になるまで、私にとっての手紙は年賀状。(手紙と呼べる代物ではない)しかも、ごくごく少人数の人と義務的に交わすだけのもの。便箋を使うような長文のやり取りはしたこともなかった。

 それでも、大学生になって海外一人旅をすると、状況は変化した。不安感と孤独感。やることも多くないので、自然と考えることが増えて、日本の家族や友人を思い、手紙を書いた。

 旅行中の手紙は、いつも一方通行。住所のない旅人は、返事をもらうことができない。それでも、何度も手紙を書いた。

 多くの人よりも、少しだけ多く手紙を書いてきて分かったことは、「手紙は人を幸せにする。」ということ。そこには3つ幸せな時間がある。

  1. 手紙を書くまでの時間
  2. 手紙を書いている時間
  3. 手紙を書いた後の時間

 ①「手紙を書くまでの時間」は、実に面白い。場合によっては、一番長い時間。義務的に手紙を書くことはほとんどない。出来事をきっかけに、相手のことを思い、考え、伝えたいことが溢れる。伝えたいことが溢れるまでの時間は、思った以上に長い分、素敵な時間だ。

 ②手紙を書いている時間は、自分と相手の2人時間。1時間かかれば1時間が、2人時間。時に、一緒に会話する以上の濃い時間となる。相手を思う時間。

 ③さらに手紙時間は終わらない。手紙を書いてから、相手に届くまでの時間。無事届いたか。相手はどんな顔で読んでいるのか。返事がない分、余計に気になる時間。それもまたよし。

 やっぱり手紙は、人を幸せにする最もシンプルな道具だ。いつでも、誰でも、地球の裏側からでも、数百円もあれば届けられる最高のギフト。

 鞄に忍ばせた一通の手紙は、9か月前に妻と交換したもの。毎日食事も会話もする。それでも、伝えたいことがあるとき、私は手紙を書く。無地のはがき。表は私。裏は妻。台所のテーブルで交わされた2週間をかけた手紙の交換。これもまた、悪くはない。

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